塗り重ねられた色面と、静物に落ちる陰影。何度見ても、セザンヌのりんごは、ただそこに在る確かなものだった。
「りんごでパリを驚かせる」。そう言い遺し、生涯をかけて、その言葉を本当に成し遂げてしまった。
つややかに写し取られた果実ではない。色と影を、何度も何度も積み重ねて、ようやくそこに在るものになる。
“積影”は、その一粒を耳もとに宿し、金の輪が静かに照らし続ける。
一度では、届かない。けれど積み重ねた一日が影を深くし、色を濃くして、やがて夢の形になる。決して諦めないことの強さを、このりんごが教えてくれた。